ついでに歌詞表書き。そして財布紛失。

書き終わったらワーカーOから手伝い依頼。
転倒者の多いユニットのディルームから廊下にかけて、床マットを敷き詰めるんだとの事。
Oは夜勤明け。時は夕刻。ほぼ24時間勤務状態の為、普段は器用なOの手元は非常に心許無い。「眠い…」と呟きながら、マットと一緒に手も切っている。
「おいおい…」とその度にバンドエードを取りに走る。「指が動きづらくて切りにくい…」と呟きながら、とうとう親指をザックリ切ってしまった。
「血が止まらない…あーあ」
あーあ じゃないだろ。まったくもう。

今日は水曜日。売店の日だ。
小腹も空いたのでパンを買う。
そして、財布を不用意にもカウンターへ置きっ放しにしたまま床マット敷きの後始末をしていた。
一区切り着いて、ふと気付くと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・財布が無い。
あっれー、おかしいな、どっかへ紛れちゃったかな。と探してみるが見つからない。
収拾好きな入居者が居ないユニットだったので、油断をしていたのだ。
恐縮しながらワーカーに紛失を告げる。瞬く間に伝達される“財布迷子”の情報。
片付けの得意な入居者への打診が始まる。さりげない手持ちポーチへの一斉捜索。居室へのガサ入れ。
事の元凶たる自分はワーカーではない為、むやみに居室へは入れない。私物には触れない。
夕飯前の糞忙しい時間帯に、余計な仕事を増やしてしまったのだ。仮にも手伝いを名目に来たのに迷惑をかけてしまい、身の置き所が無かった。
更には申し送りまでしていただく始末。一体何しに来たんだよお前は。と情けない事この上ない。
床マットを敷いていたOも、気にしてくれて帰らない。「頼むから帰ってくれ。夜勤明けなのに。ヘトヘトなのに。手、血だらけなのに。用事が有ったって言ってたじゃないか」
もう少し自分が騒ぐのが遅かったら、Oは知らないまま帰れたのに。自分の阿呆。

時間も時間だし、後はワーカーが折を見て探すから、今日は帰れと課長からの言葉。
「良いから帰んなよ。大丈夫、例えゴミ箱に入ってたとしても、必ず見つかるから。私達が見つけるから。」とワーカー達の有り難い言葉。「生活費有る?」とまで心配してくれて。
後ろ髪が引かれると言うか、もどかしいと言うか、あまりの申し訳なさに只々頭を下げる。
「歌詞表の不備もあったし、明日も来ます」と言うのが精一杯だった。